2010年1月23日土曜日

堤未果「ルポ 貧困大国アメリカⅡ」


ルポルタージュによる生の声は、その異常な社会を心に伝えてくれます。

ちょっとしたことで格差が倍増し、別世界へ転落していく人生。そして絶望。

公教育、社会保障、高齢者、少子化社会、医産複合体、刑務所労働。

医療破産した女性「一番こわいものはテロリストでも大不況でもなく、いつの間にか私たちがいろいろなことに疑問を持つのをやめ、気づいた時には声すら自由に出せない社会が作られてしまうことの方かもしれません」

世界に先んじて超高齢化社会に突入していく日本がどのような社会を作っていくか、考える上で参考になります。


<目次>

プロローグ

第1章 公教育が借金地獄に変わる

爆発した教師と学生たち/猛スピードで大学費用が膨れ上がる/広がる大学間格差/縮んでゆく奨学金、拡大する学資ローン/学資ローン制度の誕生とサリーメイ/数十億ドルの巨大市場と破綻する学生たち/消費者保護法から除外された学資ローン制度/ナイーブな学生たち/学資ローン業界に君臨するサリーメイ/子どもたちをねらう教育ビジネス

第2章 崩壊する社会保障が高齢者と若者を襲う

父親と息子が同時に転落する/企業年金の拡大/これがアメリカを蝕む深刻な病なのです/退職生活者からウォールマートの店員へ/拡大する退職生活費と貯金できない高齢者たち/拡大する高齢者のカード破産/問題は選挙より先を見ない政治なのです/一番割りを食っているのは自分たち若者だ/市場の自由と政治的自由

第3章 医療改革 vs. 医産複合体

魔法の医療王国/オバマ・ケアへの期待/排除される単一支払い皆保険制度派の声/公的保険を攻撃するハリー&ルイーズのCM/製薬業界のオバマ・ケア支持と広告費/医療保険業界と共和党による反オバマ・ケア・キャンペーン/無保険者に保険証を渡すだけでは医療現場がパンクする/プライマリケア医師の不足/You Sick, We Quick(病気のあなたに最速のサービスを)/これは金融業界救済に続く、税金を使った医療業界救済案だ/この国には二種類の奴隷がいる

第4章 刑務所という名の巨大労働市場

借金づけの囚人たち/グローバル市場の一つとして花開く刑務所ビジネス/第三世界並みの低価格で国内アウトソーシングを!/ローリスク・ハイリターン――刑務所は夢の投資先/魔法の信託投資REIT/ホームレスが違法になる/アメリカの国民は恐怖にコントロールされている

エピローグ

あとがき

  • サリーメイが社員に指示した学資ローンでの取りたて手法
  • 学資ローンは住宅ローンと並ぶ巨大なマーケット
  • 全米の大学生の三分の二が借り入れているローン総額900億ドル
  • 学位さえあれば社会に出てから望む仕事につけるという幻想
  • 規制緩和によって借りやすいローンを増やすよりも、教育費を下げることで機会の平等を提供しなければ、一生返せない債務を背負う国民がますます増える
  • 教育ビジネス、数十億ドルの巨大市場、若者の負債、親子で債務不履行
  • 子供たちにとっての教育が、将来への希望ではなく恐怖や脅迫観念に変わるとき、彼らの不安はある種の業界にとって、有益なビジネスチャンスになる
  • アメリカ人が最低限不自由のない退職生活を20年送るためには、少なくとも50万ドルの資金が必要
  • 平均的なアメリカの家庭が、退職生活に必要な金額をためることができる可能性は、少なくとも今後50年間ゼロの予測
  • RAM:Remote Area Medical 遠隔地医療隊
  • メディケイドから歯科と眼科を適用除外
  • 歯と貧困:歯には自然治癒がない→治療費が必要
  • 医療費の増大により、39%の人が貯金を使い果たし、30%が巨額のクレジット負債を負い、29%は食費・光熱費・賃借料などの基本的な生活費の支払いができない
  • 医療費の支払い不能に陥る人の多くが、公的医療保障(メディケイドとメディケア)の受給資格から外れる、仕事をもつ労働者
  • 医療保険業界
  • 都市部を除き、ほとんどの家が新聞を取らず、テレビを主要な情報源とするアメリカではCMが圧倒的な影響力を持つ
  • CMは国民の感情と無知を効果的に利用
  • プライマリケア医師(家庭医、小児科医、内科医)の不足
  • 平均20万ドルかかる医学部の学資ローンを抱える医学生たちの7割が、ローン返済のために収入の高い専門医を目指さざるを得ない → プライマリケア医師志望は2割
  • マサチューセッツ州の皆保険導入。ただし民間保険を残し、医療費高騰と医師不足問題を放置したまま → 財政難
  • コンビニ・クリニック(Minute Clinic)
  • 新しい奴隷:無保険者、十分な医療が受けられない有保険者 → どちらも一度病気をするといのちに値段がつけられ、支払い能力を超えた医療という高額商品の請求書に死ぬまで苦しめられる
  • 借金づけの囚人
  • ニューヨーク州の州法スリーストライク法 犯罪者が三度有罪判決を受けた場合、罪の重さに関係なく自動的に終身刑にする
  • 第三世界並みの低価格で国内アウトソーシング
  • 140種の製品とサービスを外部企業に提供している連邦刑務所。最大手の顧客は国防総省
  • 「順調に増加する有罪判決と逮捕率が確実な利益をもたらしてくれます。急成長するこのマーケットに今すぐ投資を!」
  • アメリカの総人口は世界の5%だが、囚人数は世界の25%を占める「囚人大国」
  • 刑務所REIT(不動産投資信託)
  • 不況下で急激に増え続けるホームレス対策としての厳罰化
  • 交差点以外の道路横断、公共の場をうろうろすること、屋外で開封した酒類を所持 → 逮捕
  • 「ホームレスに非情な10の街」
  • 「ホームレスになったら世界がひっくり返りました。」
  • 厳罰化 → 政治的・社会的に都合の悪い人々を堀のなかに大量に囲いこむための政策
  • 「私は路上に放り出されて初めて知りました。赤の他人に関わることができる場こそが、社会というものなのだと」
  • アメリカが直面している危機は、人間に投資しなくなったこと
  • ラルフ・ネーダー「国は一、二度の政権交代では変わらない。国民の判断で、その洗礼を繰る返し受けることで初めて、政治も社会も成熟してゆくのです。本当の絶望は、国民が声をあげなくなった時にやってくる。そうならないための選択肢を差し出すために私は出馬し続けるのです」

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