2010年11月3日水曜日

久繁哲之介「地域再生の罠−なぜ市民と地方は豊かになれないのか?」

  
通勤で使っている鉄道の沿線の町に対して、もちろん自分の住んでいる町もそうですが、よく思うんですよね。見た目だけなので何とも評価はできないんですが。

副題に「市民」とあるように、地方だけではない、都市においても有効な、日常では関わりを避けている論点を示してくれます。

まちって5年、10年でジワリと変化してきます。気がついたときに流れを変えようとしても莫大なエネルギーが必要です。


地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか? (ちくま新書)地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか? (ちくま新書)
久繁 哲之介

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<目次>
第1章 大型商業施設への依存が地方都市を衰退させる
宇都宮市に移住して日本一のバーテンダーに輝いた女性/宇都宮市で大型商業施設の撤退が止まらない/あの109も4年弱で撤退/市民の行動や会話が都市盛衰の行方を示す/宇都宮109で聞いた女性顧客の会話/顧客の本音は机上に届かない/アンケートの8割は、結論が事前に決まっている/宇都宮109撤退3つの理由/模倣品は本物に手が届かない状況でのみ価値がある/109が撤退してなおも大型商業施設を造りたい/地方から百貨店が消える/失敗には目を向けない、責も問わない/神を見下す高層ビルは空きだらけ/ないものをねだり、地域にある資源には無関心/長野市との違いは「地域にある資源を愛する心」/箱物の撤退・建設に、マスコミと専門家は冷静な対応を/ないものねだりは止めて、地域にある資源に光をあてよう
第2章 成功事例の安易な模倣が地方都市を衰退させる
商店街再生/なぜ歩行者ゼロでも成功事例なのか/成功事例集は提供者志向のプロパガンダ/モデル地区を褒めそやす提灯もち/顧客も売り手も少なすぎて困っている商店街は、そもそも必要か/自治体は商店街の「選択と集中」を/イベントは交流のきっかけを創り、次に繋げる/箱物だけレトロ化しても商店は利用されない/車優先空間が空き店舗をさらに増やす/金融支援だけの空き店舗対策にチャレンジしたい市民はいるのか/リスク高いチャンレンジショップは「曜日毎テナント、週末起業」から/商店街再生へ4つの提案/松江を「カフェの街」にしよう/ボエーム憧れの聖地は「花の都」に進化する/すでに地域にある資源に「気がつく」
第3章 間違いだらけの「前提」が地方都市を衰退させる
スローフードを核とした交流・コミュニティ/「食のグルメ化・ブランド化」は競争の厳しいビジネス/ブランド化で豊かになれるのは一部の産業者だけ/関さば、小樽3点セット/消費者は飲食店も「ノーブランド(無印)」を好む/散策者はいても、飲食店利用者は少ない「ぱてぃお大門」/集客が売上に結びつかない/福島でおやじが「今時の若者は、なよなよしてる」と嘆く/福島で若者が「おやじの論理」を呆れる/若者は「自宅でまったり」が大好き/飲食店の顔で質がわかる/おやじ視線のない空間が大人気/フィットネスクラブは少し痩せてから行く場所/インサイト/画一的なおやじ色に染まる地域はさらに衰退
第4章 間違いだらけの「地方自治と土建工学」が地方都市を衰退させる
間違いだらけの「地方自治と土建工学」/自治体固有の風土・文化/地方盛衰は自治体次第/自治体改革の方法/首長の意欲が役所を変える/待っていれば降りてくる情報に依存する自治体/市民の足は切り捨て、駅前開発を進める岐阜市/公共交通は「赤字でも残す」高岡市、「赤字だから切る」岐阜市/鉄道廃線後の街は著しく衰退する/人より自動車が優先される都市は必ず衰退する/「連携」は他人には求めるが、でも実行は大の苦手/全館消灯された市役所の内と外/連携すれば一つの取り組みで複数の目的を実現できる/役所の郊外移転と、街中衰退の因果関係/成功事例は土建工学者自らが描いた理想郷/コンパクトシティとは何か/コンパクトシティ先進地の富山市も繁華街は著しく衰退/市民はコンパクトシティには反対か無関心/西欧とライフスタイルが違う日本でコンパクトシティ模倣は無謀/成功事例「ネーミングライツ」にも飛びつく/2400万円のネーミングライツで効果はあるのか/心の欠落こそ最大のリスク
第5章 「地域再生の罠」を解き明かす
「地域再生の罠」を解き明かす/上勝町の「葉っぱビジネス」は1980年代後半には注目されていた/人の心を捉えるソフト事業は持続可能な活性化を導く/稀にある本当の成功事例は模倣が困難/心の空洞化が引き起こす「街中の空洞化」/暴走する土建工学者/地域づくりの「仕組み」そのものを変えよう/ウォークマン開発秘話/市民志向な地域づくりへ
第6章 市民と地域が豊かになる「7つのビジョン」
7つのビジョン/お金を届けるボランティア、心を届けるボランティア/需要創造の鍵は「市民の不満」にあり/ワーク・ライフ・バランスは公益に繋がる/市民の地域愛と交流を育む地域スポーツクラブ/アルビレックスが新潟の若者を変えた/市民に地域を「愛してもらう」には/「市民憩いの場」だった甘党たむら/市民が「余計なお金と気を使わない居場所」を創る/口コミで賑わった甘党たむら、口コミで撤退した宇都宮109/あなたが幸せだと、私も幸せ/私益ばかり考えると街も店も衰退する/地域再生の目的は「市民の幸せ」か「地域の成功」か/市民の心、ライフスタイルが先に尊重される地域づくり
第7章 食のB級グルメ化・ブランド化をスローフードに進化させる──提言①
誤用される「食と低未利用地」/街の賑わいは飲食店数に比例/需要を吸収するだけの大資本店/需要創出型飲食店を創る/農産物「加工品」直売所を「憩いの場」に/地域独自の味をコンビニ任せでいいのか/B級グルメをスローフードに進化させる久留米市/市民が主役になれる「食の八十八カ所巡礼の旅」/産業者に「自立、顧客志向」を促す/「子供たち憩いの場」が地域愛を高める/スローフードは大資本チェーン店の進出を阻止できる
第8章 街中の低未利用地に交流を促すスポーツクラブを創る──提言②
なぜ皇居周辺の銭湯利用客は増えたのか/低未利用地の活用を問いなおす/箱物需要創出と雇用創出も期待できる/交流空間は既存ストックを活用/市民の街中回遊を仕掛ける/人の普遍的ニーズを叶えると街は賑わう/郊外住宅地に高齢者クレーマー/地域全体の利益へ「戦略的な赤字施設」を創る/「フリー」の仕組みを創る
第9章 公的支援は交流を促す公益空間に集中する──提言③
青森駅前にも市民の「電車待ちの居場所」/アウガは戦略的な赤字施設/公益空間は利益が出ない/公的支援の選択と集中/商店街「所有と経営の分離」の光と影/公益基準の税制で「シャッター商店」は減る/専門家が机上で作る地域から「市民が現場で創る地域」へ/商店街を市民の「物語消費の場」に/私益追求者が公益に目覚める

  • Iターンを志す魅力は、お金ではなく、地域のもつ文化や市民の営みにある
  • 地域再生の施策は、「提供者側の中高年男性」だけで策定されることが常態化している。ここに地域衰退の元凶がある。
  • 公共施設は利用率がどんなに低くても、わずかでも利用者がいるがゆえに、検証の論点は「失敗か否か」で初めても「今後も必要か否か」になりがちだ。
  • 地域再生の新施策は、地域衰退原因を社会現象(少子高齢化、車社会、商業施設郊外化など)だけの責とみなし、現行施策の問題・不適切さが問われることはほとんどない。
  • 開業時とイベント時は賑わう 持続不能
  • モデル地区
  • 需要側も供給側も、必要性をあまり感じていないものに支援が必要なのか?
  • 商店街再生は企業再生と同じように「選択と集中」が不可欠、その判断は現場ではなく自治体が行うべき
  • 人優先空間
  • 同じ志をもつ士
  • 前提の誤り
  • 地域産品を高く・多く売ろうとする考えをあらため、市民の交流を促す場として野菜直売所を位置づけなおす
  • 地方盛衰は自治体次第
  • 自治体固有の風土・文化の改革には、「役所責任の明確化」と「市民視線からのわかりやすさ」の2点が必要。この2年は、行政施策に無関心だった市民が協力や共感を寄せる原動力になる
  • 7つのビジョン
  • 市民同士の交流、世代間交流を促す仕組み
  • 市民に愛される「地域づくり」とは、市民が優しく包み込まれる空間と時間を創出することではないだろうか。換言すれば、交流の「居場所づくり、機会づくり」である。つまり、地域再生の本質は「交流、心の再生」にあると思う。
  • 市民が余計なお金と気を使わない居場所を創る
  • 子どもの時から、地域食を媒介に大切な仲間と至福の時間を過ごす経験を通じて、地域愛を育んでいる。この地域愛は、飲食店など産業や地域にも効果が波及する。
  • 市民の「歩く意欲」は、公益空間の魅力に比例する
  • 入り口をフリー(無料)にする仕組みが現代の消費者から強く支持されている。
  • 「地方への大資本の広告や店舗の浸食」は、地方都市を画一的な風景にする元凶である。目先の広告料は低くても、地元市民の「心ある物語・作品」を採用することが重要

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